※ゲスト出演:イルカ先生、シカマル。内容はシノバカなカカシさんと、シカシノ風味。




観察日記

シノは朝からアカデミーでイルカの助手をしていた。
観察眼を養うために出した夏休みの宿題、植物の観察日記の添削だ。
イルカ一人でもこなせはするが、どうせなら動植物の観察に長けているシノにも見てもらおうと思ったらしい。
いのも花に詳しいが観察したりはしないようだし、ナルトの趣味は園芸だが添削などは不向きだ。
そんなわけで、イルカとシノは一室で黙々と宿題に目を通していた。
一人の、呑気な上忍が来るまで。
「シノ~~~~~!!」
前置き無く、気配もなく。突然ドアが開かれたかと思うと、カカシがシノに飛び付いた。
「あ、どうも。こんにちは。カカシさん」
「や、どうも、イルカ先生。お疲れ様です」
イルカはびっくりしながらも丁寧に挨拶をする。それに、笑顔で応えるカカシ。当然、シノに抱き付いたまま。
「………離してください。邪魔です」
シノは日記に目を向けたまま、一応敬語だが到底敬っているとは思えない台詞を吐いた。
「つれないなぁ…。せっかく心配して来たのにぃ……」
甘えた口調で言いながら尚も懐いてくるカカシに、僅かに視線を向ける。
「心配……?」
一体何に…。と目で問うと、カカシは甘えた声で答えた。
「だって、一日中、イルカ先生と二人っきりで、部屋に籠もって仕事手伝ってるって聞いて……」
「帰れ」
居ても立っても居られず…という部分は見事に蟲に封じられ、カカシは即効問答無用で部屋から追い出された。そして掛けられる鍵。
「え~~シノ~~~!? なんでぇ~~??」
「失礼にも程がある。イルカ先生をあなたと同類にするな」
ドア越しの泣き声を、シノはピシャリと切った。
そんなやり取りを、イルカは呆気に取られた様に見ている。
しばし黙ったカカシだったが、ここであきらめる男では無い。
「………わかったよ。イルカ先生には謝る。だから鍵開けてよ~」
「駄目だ。さっさと帰れ」
「え~。でも、いいの? これ、返さなくて…?」
(これ…?)
カカシの言葉に、シノはふとイルカに目をやった。イルカも、なんだろうという風に肩をすくめる。
「『8月8日。天気晴れ。気温27度。時刻6時20分。今日は朝顔が開く瞬間を見ることができた…』」
「!?」
その文章に、シノははっと気が付いた。覚えがある。先程まで、自分が手にして読んでいた観察日記。
いつの間にやら、奪われていたのだ。
まったく、無駄なところで器用なマネをする……。
シノは小さく息を吐くと、仕方なしに鍵を開け、ドアを開けた。
「カカシ先生、返して…」
カカシの右手がシノの後頭部を押さえ、上に向かせたかと思うと、顔が近付く。
咄嗟のことに、ください、という言葉を失った。
瞬きをする間もなく。
キスされた…と思った。
しかし、ふと正気を取り戻すと、カカシは寸でのところで止まっている。………否。止められていた。
「何してんすか。カカシせんせい」
「………シカマル?」
左手の方を見ると、シカマルが印を組んでいる。
目線を下げると、シカマルの影がカカシへと伸びていた。
影真似の術だ。
「ナルト達が怒ってましたよ。もう5時間の遅刻だって」
顔が離れ、カカシの体勢がぎこちなくシカマルのものと同じになっていく。
この機を逃さず、シノはカカシの手から観察日記を奪い返した。
「あ!…あ~…そお? それじゃそろそろ行かなくちゃね」
「いいっすよ。このまま連れてくんで」
「え…っ?」
思わぬシカマルの言葉にカカシは声を上げたが、そのままシカマルの動きに従って行く。
本気を出せば脱出もできなくはなさそうだが、そこまでする気はないらしい。
「すまん、シカマル。礼を言う」
シノがシカマル(その横にはカカシも居るが)の背中に声を掛けた。
シカマル(とカカシ)は軽く手を挙げ応えて去っていった。
シノは二人を廊下の角まで見送ると、やれやれと部屋に戻る。
「失礼しました」
「あ、いや。………お前も、苦労してるんだな」
「まあ、あれはあれで……。否、迷惑なのは確かですが」
苦笑するイルカに、シノは誤魔化すように再度謝罪して再び観察日記の宿題に目を通し始めた。



結局、全てにコメントと評価を付け終えたのは夕刻。真っ白な朝にやって来たはずのアカデミーから出ると、空はすっかり茜色に染まっていた。
「よぉ。お疲れ」
「…ああ」
アカデミーから出たところで、夕焼けの中に佇むシカマルがいた。
「……何をしている?」
「ん…? …空、見てた」
シカマルが空を仰ぐ。シノも、続いて空を見上げた。
サングラス越しでも、真っ赤な夕焼け空は、建物や森そして雲の影を浮き上がらせてより美しく映えていることがわかる。
きっと、本当の色はもっとずっと美しいのだろう、とシノは淡々と思った。
そんなシノを、シカマルは密かに見ていた。
空を見ていた、というのは嘘。シノを待っていたのだ。
しかし、そんなこと言えやしない。
あの後、カカシをナルト達に引き渡すまでの間に、カカシから聞いた話。
『アスマがさ。シノが一日中、イルカ先生と二人っきりで、部屋に籠もって、仕事してるって言うから』
それは、シカマルも言われたことだった。
詰まるところ、同じ穴の狢。
イルカ先生を信頼していないわけではないが、やはり少し心配で様子を見に行ったらああいうことになったのだ。
「シカマル!」
「あ…?」
シカマルが悶々と考えていると、唐突に呼ばれた。シノではない。もっと気さくな……。
「イルカ先生」
「お前もいたのか。これからシノと一楽のラーメン食いに行くんだが、お前も一緒にどうだ? 奢るぞ?」
シノに向けていた目線をもっと奥にやると、イルカが爽やかに駆け寄ってきた。
ラーメン? シノと…? っつーか、シノもラーメン食うのか……て、そりゃ食うか…。
意外な取り合わせに内心一人で突っ込みつつ、シカマルはう~んと唸った。
「でも、俺なんもしてねーし…」
「気にするな。それに、この前授業に協力してくれたろう? その礼をしたいと思ってたんだ」
そう言う、イルカの屈託のない笑顔。
確かに、この前手伝った。でもあれは火影命令だ。礼も何もない。それに何より、カカシと同類の自分が混ざってはいけないような気が……。
そんなことを思考していると、ふいに服の裾が引っ張られたように感じた。
見ると、シノが小さく裾を掴んでいる。
「行こう」
それが、一緒に行きたい、と言われた様に思えたのは、思い上がりだろうか。
ともかくそれが鶴の一声になり、シカマルも奢ってもらうことになった。





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あとがき
シノとイルカ先生。本筋では関わり見られないけれど、この組合せは好きです。
ナルトは特別としても、他の生徒もちゃんと気にしてくれているはず。