※アスシノ、ほのぼのです。




面白いのは

のんびりと空と雲を眺めている間、いつもの如く、隣からバリバリという咀嚼音がひっきりなしにしている。
見ると、チョウジが焼き肉味のスナックを豪快に頬張っている姿。
もう一度空を見上げて、一つ、息を吐いた。
シカマルは五代目に呼ばれ、いのは家の手伝いで、今はアスマとチョウジの二人だけ。
屋上で『くつろいでいる』のであって、けして『サボっている』わけではない。と敢えて強調しておこう。
「アスマ先生」
ふいにチョウジに呼ばれ、「ん?」と視線を向ける。
その視界に、綺麗な青い蝶が飛び込んできた。
「蝶か」
その蝶はひらひらとチョウジのまわりを飛び回った後、チョウジの額あてにとまった。
それと同時に正面に現れた一つの気配。
「シノ…?」
「よう、どうした?」
チョウジもアスマも、現れた珍しい人物に驚いた。この場所にはよく来るが、第8班の油女シノをここで見たのは初めてだ。
しかしシノは二人の反応に、相変わらず表情を変えることもなく、すうっと指を指す。
「そいつを、追ってきた」
そいつ…と指の先を追ってみると、チョウジの額あて、そして青い蝶がいた。
「ああ。この蝶、シノのだったんだ」
チョウジの言葉にシノは頷き、ゆっくりと歩み寄ってくる。
音もなくチョウジの額あてに手を差し伸べると、青い蝶がふわりと舞い上がり、シノの甲に舞い降りた。
その後数秒じっと蝶を見ていたが、ふいに蝶が再び羽を動かし、そのまま空高く舞った。
「いいのか? 追わなくて」
「家に、帰ったんです」
シノの答えに、いつの間にそんな会話を済ませたのかとアスマは思った。
こいつ、実はテレパシーが使えるんじゃなかろうか。
アスマの考えなどおかまいなしに、シノはふいとチョウジに向き直り、首を傾げる。
意図せずチョウジとシノのツーショットを目の当たりにして、アスマは、なんとも妙な組合せだなと思わず苦笑した。
「…………それは、美味いのか?」
シノが心底興味深げに問う。普段大人びた同期の、意外に素朴で純粋な興味に、チョウジが目を瞬かせた。
「美味いよ……食べる?」
珍しいことこの上ないことに、チョウジが菓子を差し出す。
面白い事態に、アスマは口を挟まずもう少し様子を見ることにした。
「シノってこういうの、食べるの?」
「否。食べたことは無い」
「無い!?」
「ああ。だから、いつもお前が食べているのを見て、気になっていた」
袋から一枚取り出して、もの珍しげにスナック菓子を眺める。
ほんとにこいつ、現代のガキか? とアスマが心の中で呟く。
「お前は、いつも本当に美味そうに食べているからな」
褒めると言うより、正直にそう思っているのだという風なシノの言葉に、「そ、そう?」とチョウジが照れた。
(やべ。吹き出しそう…。)
アスマが笑いを堪えている間に、シノが初めてのスナックを口にする。
そして、その感想が…。
「……………味が濃い。それに油っこい」
(容赦ねえなぁ!おい!)
「これは、そこが良いんだよ!」
「……そういうものか?」
「そういうものなの!!」
大好きなお菓子を非難されて、膨れたチョウジが声を張り上げる。
食べ物のことになると人格が変わるチョウジ相手に、さて、シノはどうでるかと一種期待して見ていると、シノは僅かに首を傾げて言った。
「………変わった食べ物だな…」
「―――っ!」
堪えきれず、吹き出した。
声も上げず爆笑するアスマをチョウジがビックリ眼で、シノが不思議そうに見ているのに気付いたが、ダメ。笑いがとまらない。ツボにはまった。
「アスマ先生、大丈夫?」
腹を抱えて痙攣するアスマにチョウジが声を掛けるが、応える余裕はない。
なんとか片手を上げてへーきへーきと振ってみるが、どう見ても笑い死にしそうだ。
「俺は、何かおかしな事を言ったか」
「………言ったかも…」
そんな会話が、拍車をかける。
今は、何を聞いてもダメだ。どうしてもおかしく聞こえてしまう。

「……………なにやってんだよ」
そこに、新たな声が加わる。五代目のところから戻ってきた、シカマルだ。
暫くチョウジとシノと笑い死にしそうなアスマを順に見やり、状況を理解したのか、
それとも無視することに決めたのか、何も触れずにチョウジに言った。
「チョウジ、任務だ。いの迎えにいくぞ」
「え、あ、うん。でも…」
しかしチョウジがアスマを見ると、シカマルも、呆れたような目を向ける。
「ほっとけ。アスマはいらねーよ。ただの道案内だからな」
そして面倒臭そうにしながら、今度はシノに向かって言った。
「シノ。わりーけど、しばらくここに居てくれねーか」
「………?」
何故、と無言で問うシノ。
その耳元に口を寄せて、シカマルは小さく答える。
「さすがに、あのまま放置すんのはかわいそうだろ?」
それを聞いて、シノはアスマを見、そしてシカマルを見て頷いた。
「承知した」
何を承知したのか知らないだろうが、その台詞に再びアスマが吹き出す。
下忍二人と中忍一人は、それぞれの眼差しを、10班の担当上忍に向けた。


「は…あぁぁ……」
椅子に座りのんびりと空を眺めていたシノの耳に、隣から息を整える声が届く。
「収まりましたか?」
何がそんなにおかしかったのか、とにかくひたすら笑い転げていたアスマに目線を落とし、問う。
「な、なんとか……」
あ~、腹いてぇ…と呟き答えるアスマだが、顔はまだにやけてる。
「………何かおかしなことを言いましたか?」
「んん?」
アスマがシノに顔を向けると、真面目な顔で眉を寄せている。
「いや、なんつーか……」
左手で口元を押さえ、体勢を整える。右手をぽんとシノの頭に乗せ、アスマは言った。

「お前が面白い」

シノが益々眉間に皺を寄せるのを見て、改めて、本当に面白い奴だと思うアスマだった。




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あとがき
アスシノ!表に進出しました!
裏のアスシノはシリアス風味なので、ギャップがありますが。
でも、こういうアスマ先生とシノがやっぱり好き。
シノがツボにはまったアスマ先生…笑い過ぎ!
チョウジとシノのツーショットも好きです。
でも、シカマルが加わると、実はこの話シカシノでもいけるんじゃないかと…。
そんなことも思いました。












(07/4/18)